ところで、スキー林間に参加するために、先生と話をしに私が学校へ行った日のこと。
話が終わって、面談室を出ようとした時、チャイムが鳴って「下校の時間」を知らせる校内放送が始まりました。あ、もう下校時間なんだ、と思っていると、担任の先生が、
「この声。子リス君ですね」
子リスは放送委員でした。「放送委員会に入った」と聞いた時には、人前で喋れなかった子リスが、マイクを通して全校に向けて喋る仕事を?と、感無量というよりは不思議な気がしたものでしたが、その日は運のいいことに、子リスが下校の放送をする日に当たっていたのでした。スピーカーから流れて来る声をよく聞いてみると、確かに子リスの声です。おお…ちゃんと仕事をしているじゃないか…
それから先生方にお礼を言い、面談室を出て玄関の方へ歩きかけた時、同じ階の放送室の戸が開いて、子リスがもう一人の放送委員の子と一緒に廊下に出て来ました。
反射的に、「あ、マズイ…近づいて来る…」と思い、笑顔を封印してごくフツーの顔を心掛け、歩いて行きました。あまり嬉しそうな顔をすると、きっとすごーくイヤがられるに決まっているからです。
ところが、3メートルぐらいの距離まで近づいた時、驚いたことに子リスはこちらに向かってちょっと手を上げ、そしてなんと、ニコッと(ちょっとはにかみつつつも)笑顔を見せているではありませんか!
えっ、笑った?学校の中で私に?
心底びっくりしながらも、“ぱあっっ”と嬉しくなった私は慌てて、「ご苦労様」と言い、「帰ってるね」と付け足して、玄関への階段を下りました。帰り途、心の中がずっとポカポカ温かかったことは言うまでもありません。
この日を境に、子リスは学校で私達に合っても、「見えてません」の顔をすることはなく、普通の顔で普通に話すようになりました。つまり、思春期の一番厄介な時期を抜けたということだったのだと思います。
救急車の一件、「天罰」とは言いすぎだと思うけれど、何かツキモノが落ちたような作用があったことは事実なのかもしれません。