3年生時代 その① N先生

 2008年4月、子リスは小学校3年生になりました。新しいクラスの担任の先生は、N先生という、若い女の先生でした。新婚ホヤホヤのN先生は、ちょっとボーイッシュな、笑顔の素敵な先生でした。
先ずは恒例の…「新年度:先生との面談」です。
 3年目ともなると、これはすでに「新年度やることリスト」にしっかりおさまっていて、始業式から帰って来る子リスから連絡帳を受け取ると、早速新年度の挨拶と面談のお願いを書いて持たせ、翌日返事をいただいて日取りを決めて…と、淡々と進んでいきます。このあたり、「うーん、私も慣れてきたなあ」と変なところで感心したりしていました。

 そして、面談でこちらから話すべき事項も、基本的には去年と変わらず、です。
子リスの状態は前年度のM先生からの引継ぎで大体ご存じなので、
補足的に今の状態を説明し、その後、緘黙症への取り組みを進めて行く中で何が大切か、教室で先生にお願いしたいことは何か、ということについて話します。

現状:
 ① 喋らないのではなく(つまりやる気の問題ではなく)喋れない。
 ② 本人は、「場面緘黙症」という言葉を知らない。
 ③ 声は出ないが、頷き、首を振るなどで、Yes/Noの質問には答える。
 ④ 表情やジェスチャーで気持ちを伝えようとしている。

大切なこと:
 ① 喋れないことに関して、本人が「病感」を持たないこと。
 ② 喋れなくても、他の手段を使ってコミュニケーションをとる意欲を失くさせないこと。
 ③ 喋れないことは、子どものほんの一部であることを忘れないこと。
 ④ 何よりも、学校に楽しく通えること。

具体的なお願い:
 ① 本人には<u>、「場面緘黙症」という言葉を使わない</u>のは勿論、「喋れるかな?」などと、本人が意識するようなことを言わないで欲しい。
 ② クラスで全員が一人ずつ発表するような時は、順番を飛ばしたりせず、紙や黒板に書くなど、何らかの方法で発表させて欲しい。
 ③ 話しかけたり質問をしたり、ということはなるべくして欲しい。ただ、質問に対して声を出して答えられなかった時には、声を出すことを無理強いしな いで欲しい。
 ④ 出来れば質問には、クローズド・クエスチョン(Yes/Noで答えられる質問)をたくさん取り入れて欲しい。
 ⑤ 時々面談の機会を持って欲しい。

 N先生は、メモを取りながら真剣に私の話を聞いて下さいました。そして、
「普通に接するということでいいんですよね。そして声が出なければ、書いてもらったり、指さしてもらったり、という方法で意思表示をしてもらう、ということですね」
と確認されました。私が、「そうです、お願いします」と言うと、
「わかりました。大丈夫です!」
と元気におっしゃいました。

 若い若い先生、緘黙症の子どもを受け持った経験どころか、教員としての経験そのものも、まだ数年しかない先生でした。でもこの若いN先生の「大丈夫です!」が、何だかとても嬉しかったことを覚えています。大丈夫、とにかくこの子、引き受けます!という風にも聞こえましたし、また、私と比べて年齢的にはるかに子どもに近い分、本能的に(というか、あれやこれや考えることなく、というか)、「心配なことが思い当たらないから、きっと大丈夫!」と言われているような気もしました。
それで、一瞬「えっ、『大丈夫』ってホントに…?」という思いが過りはしたものの、すぐに「そ、そうおっしゃるなら、それに乗っかってみましょうか…!」という気持ちになったのでした。そして、
先生:「よろしくお願いします!」
私:「あっ、こちらこそ、よろしくお願いします!」
と挨拶をし、若さと元気と、良い意味での軽さに多少圧倒されながら、今年度初面談の締めとなりました。


 先ずは信じて、進み始めてみる。それが当時、まだ色々な意味で大きな不安と迷いの中にいた自分を動かしていた、ささやかな信念のようなものだったかもしれません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA