子リスが初めてちびリスを見たのは、ちびリスが生れて約四時間後、新生児室のガラス越しでした。
12歳以下の子供は基本的には病棟に入れない、というのが病院の規則だったのですが、新生児の兄弟に限っては、検温をし、マスクを付けたうえで、「新生児兄弟証」なるものを首からぶら下げて、新生児室の外側までは行ってよい、ということになっていました。
私にとっても、子リスに会うのは昨夜以来です。ちびリスが生れるのを待合室で待つ間、朝になって来てくれていた私の母に、「陣痛室に様子を見に行って来て」と何度も伝令を頼んでいたらしい(自分は入れないので)子リスでしたが、生まれた妹を見て、どんな風に思ったのでしょう。少し経った頃に、子リスに聞いてみました。
すると、その時に印象に残ったことをこんな風に話してくれました。
① 行ってきます、って言って陣痛室に入っていった時には大きかったママのお腹が、
ぺしゃんこになっていたこと。お腹が無い!って思った。
② ママの顔色が、血の気が無いどころか、シーツみたいに真っ白だったこと。そして、
③ 「これが妹ですよ」とガラス越しに見せられたちびリスが、予想をはるかに超えて
小さくて、すごくびっくりしたこと。
「『え?これ?このちーいさいものが?これがねえ、へーえ。』っていう感じだった。もう、男の子なんだか女の子なんだか、そもそも人間なんだか、かわいいんだか、かわいくないんだか、とにかく小さくてびっくり」
したとか。4年生男子の率直な感想です。どうも、おむつなどのコマーシャルでテレビに出て来る赤ちゃんを、もう少し小さくしたぐらいのサイズだと思っていたら、とんでもなく小さいので、すっかり驚いてしまったようなのでした。
それから6日後が退院の日でした。白いおくるみにくるんだちびリスを抱いて、夫と子リスの待つ待合室に入っていくと、子リスは待ちかねたように手を広げて、ちびリスを受け止めました。子リスは腕のなかに、初めて妹を抱きました。
すると、ちびリスがちょっと動いたのでしょう。子リスは慌てて、
「えっ、これ、なんかうごく・・・💦」
夫:「そりゃそうだ、生きてるんだから。」
もぞもぞと動くちいさいちびリスに、子リスはすっかり心を奪われたようでした。
病院からの帰り道、後部座席の真新しいチャイルドシート(何しろ、子リスのものは、もう次は生まれないだろうと思って、つい一年ほど前に処分したところだったのです)にちびリスを乗せて、その横には子リス。私は助手席に。
「さあ、お家に行きましょうね」と出発すると、どうしたことかちびリスは、突然ふぎゃふぎゃと泣き出しました。まだ聞いたことがなかったぐらいの大きな声で、泣き続けています。
すると子リスは、ちびリスの頭をそーっと撫でながら、
「大丈夫だよ。お家に行くんだよ。よーしよし💦」
と、一生懸命にあやし始めました。
病院から家まで、車で20分ほど。その間、ずっと泣き続けるちびリスを、子リスはずっと「大丈夫だよ、よーしよし」とあやし続けてくれました。その様子を背中に感じながら、私は胸が熱くなったのでした。
そして家に着いた時、子リスの右腕はすっかり固まってしまい、「イテテテ…」というその顔は、とても誇らし気に見えました。