待ち望んだ「その日」なのに、知らないうちにそれは始まっていた…
これは一体どういうことなのでしょう。
どうやら、子リスはある日突然「おはよう!」などと言って、先生や友達を唖然とさせたというわけではなく、
ちょっとずつ、ちょっとずつ、息が声に変わっていったため、
結果として、「気が付いたら」声を出していると言えるレベルになっていた、ということのようです。
とは言え、「息」が「声」に変わるためには、ある程度「声を出そう」という意識が必要なのではないかと思うのですが、子リスが声を出し始めたのは、
「自然に出るようになった」のではないけれど、子リスが自ら「出そうと決めた」訳でもなく、
「声を出す機会を与えられるようになった」、ということでした。
4月の一番初めの面談での、「ちょっと頑張らせてみてもいいですか?」という言葉で始まった先生のプロジェクト(?)でしたが、1学期、2学期を通して、目に見えての「話すための」働きかけはありませんでした。でも、それは決して先生が何もしていなかった訳ではなく、「話してみようよ」、「声を出そうよ」、ということをストレートに促すことができる段階に至るまでに、それだけの時間がかかったということです。
それをしてもよい段階とは何か。―― それは、子リスが学校生活を楽しんでいること、ある程度注目されることに慣れること。そして、先生やクラスメートに信頼を置いていること。その前提がしっかり出来たという段階であったのだろうと思います。
「わだあいたい」(4年生時代その⑰)の頃は、まだ子リスのコミュニケーション手段は圧倒的に、「口パク+ジェスチャー+表情」によるものでしたが、その後、先生はついに動き出しました。
(ここからは現在の子リスが話してくれたことをまとめたものです)
先生からの最初のミッションは、教室で座っている時、「前の席の人、又は隣の人だけに聞こえるように」話す、ということだった。
例えば道徳の時間。「ここで太郎君はどうしてこういう行動を取ったと思いますか?自分の考えを書いてみましょう」などという課題が出され、子供達はプリントに自分の考えを書き込み、その間、先生は教室の中を歩きながら、子供達の様子を見て回る。そしてその後、何人かを指名して、書いたものを発表させる。
先生はある時、自分を指名した。その時先生は、
「子リス君もなかなかいいことを書いてるから、発表してもらいましょう。〇〇君(前の席の子)だけに聞こえるように言ってみて」
と言ったので、多分ささやきに近かったと思うけれど、とにかく何とか前の子に伝えた。前の子は一生懸命聞き取ってくれて、そして、「子リス君は、………………と思ったそうです」と発表してくれた。
子リスの声がたとえ「ささやき声」だとしても、声を出す気ゼロのまま、頷きや口の動きに完全に頼っている状態とは、全く違います。最初はそれこそ蚊の鳴くような声だったとしても、自分で出そうと思って声が出たということは、大きな突破口になったに違いありません。
ここが子リスにとっての分岐点だったと思うのですが、私はそんな一部始終を全く知らなかったのです!
それだけ自然な移行だったということなのか、子リスにとって大きな出来事過ぎて、私に報告しかねたのか…
また今度、本人に聞いてみようと思っています。