その日、私は子リスが寝た後に、夫にこれまでのことを話しました。
携帯電話にいたずらをされたこと。トイレに閉じ込められて、その結果手に怪我をしたこと。教室で、誰かに足を蹴られて酷く腫れたこと。そして、子リスが、
「みんな僕を一番下にしておきたいんだよ」と言ったこと。
夫は、私の話に対して思ったことをあれこれ言うことなしに、
「もうそれはだめだな。明日学校に行くぞ。」
と言いました。話の内容と私の様子から、すぐに何とかしなければいけないと感じたようでした。
そして次の日の朝、子リスが家を出るとすぐに、夫は学校に電話をかけて、担任のMM先生を呼んでもらい、一通りの経緯を話しました。そして、
今日学校に出向くので、関わった子供達を集めてもらいたい、ということをお願いしました。
MM先生は初め、少し日を置いてからでもよいかとおっしゃったそうですが、夫は、
「いいえ、待ってはいられないので、できれば今日、お願いします。私が直接子供達に聞きたいことがあるのです」と言い、それに対してMM先生は、
「わかりました。今日ご希望ということですね。では今日中に、子供達に私から事情を聞いておきます。その上で、放課後にお父様から直接お話していただくということでよろしいですか」
と承諾して下さいました。
学校では、先生が子供達にそれぞれ事の真偽を確かめ、子リスに対してしたことが事実であると確認して下さっていました。(中には、ふてくされていた子もいたようですが、それ以外の子は、素直に認めてくれたそうです)
そして放課後、夫は学校に行き、子供達と対面しました。以下、夫からの報告です。
まずは、子リスが私達に話したことが真実なのかどうかを確かめると、
本当だと子供達が言ったので、
彼らがしたことはどういうことなのかを話した。
まず携帯電話について。人のものを勝手にとりあげる、いじる、挙句の果てにはその子をトイレに閉じ込めるなど、やってはいけないことだと知らない筈はないだろう。君たちのやったことが、息子の心も体も傷つけたことをわかっているか。
更に足の怪我について。人に暴力をはたらくということは、犯罪になり得ることだ。犯罪になるということは、警察に捕まって罪を償わなければならないことなんだ。それを理解しているか。
そう子供達に問い、
最後に、君たちはこれから、子リスと友達でいたいと思ってくれているのか、と尋ねたところ、
中の一人が、「友達でいたいです」とはっきりと答えてくれた。それで、
「そう思ってくれるのなら、子リスも友達でいたいはずだ。これからもよろしくな。」
と言い、面談が終わったのだそうです。
その夜、子供達のお母さん2人から、お詫びの電話がありました。MM先生がそれぞれのお宅に電話をして、事情を説明して下さったということでした。
2人とも、「いじめられることはあってもいじめる側になるなんて、考えもしなかった。悲しくて悲しくて、申し訳なくて…」と言って下さり、私はぎゅっと胸が痛くなりました。その気持ちが痛いほど分かる気がしたからです。子リスだって、どちらかといったらいじめられる側になり易いだろうことは容易に想像がつくけれど、でもどこで何があって、いじめるグループの一端にいるような状況にならないとも言えません。もしそうなったら、今日の何百倍ものショックを受けるだろうと思ったからです。実際、その2人の子供達は、もともと大人しくて、穏やかで、自分の意志で誰かをいじめるような子ではないのです。
また、「友達でいたいです」と、着ていたTシャツの首まわりの部分を引っ張り上げて、涙を拭きながらそう答えてくれた彼は、その後も卒業まで一緒に遊ぶ友達でいてくれました。卒業後は、中学でのクラスも部活が違ったためになかなか接点がありませんでしたが、それでも町の中で会えば、親しく話をする関係でいます。
ところで私はあの日の朝、夫が学校に電話をした後も、何も「今日すぐ」でなくてもいいのではないか、と正直なところ思いました。先生が色々考える時間もあってもいいんじゃない?と弱気になっていましたが、夫は、こういうのは待っちゃだめなんだ、と譲りませんでした。
いじめる行為がエスカレートするのは、いじめられる側だけでなく、いじめる側にとっても同じぐらいよくないことだ。まだ「悪ふざけ」の範囲のうちに何とかすることが大事なんだ。疑いをかけることには躊躇するものだけど、できるだけ早く対処することで、いじめる側も救えるんだよ。
「まだ悪ふざけ」だからと言って様子を見ているうちに、本当に深刻ないじめになってしまうことも多い。その場合、「様子を見る」というのは、ある意味エスカレートするのを待っているようなものだ。そうすると「こんなにひどいことをされたんです」と訴えることができるけど、それと引き換えに、元の関係には戻れなくなるという結果が待ってる。でも早く止めてしまえば、また友達になれる。
という考えなのでした。
このブログには、あまり登場しない夫ですが、ここで本当に大切な仕事をしてくれました。
そして、今日学校に伺います、という唐突な願いを聞き届けて、一日で解決まで持って行く機会を作って下さったMM先生には、本当に感謝しています。今考えても、なかなかできることではないと思うのです。