中2の冬といって思い出すのは、子リスが「無熱性けいれん」をおこした日のことです。
2013年の暮れも押し迫ったある日の夜。いつもは自分の部屋で寝るのに、その日子リスは気分転換をしたくなったのか、リビングの隣の和室で、ちびリスの隣に寝転がると、そのまま眠ってしまいました。
夫と私はリビングで、テレビを見ながら話をしていましたが、ふいに子リスが大きく足を動かした気配を感じました。寝ぼけてちびリスを蹴ったりしては大変だと思ったのもありますが、何か言い知れぬ不安も感じて様子を見に行ってみると、子リスの様子がおかしいのです。
目はつむっているのに眠っているようではなく、呼びかけても返事をせず、体が小刻みに痙攣しています。
私はびっくりして、夫を呼びました。飛んで来た夫は子リスの様子を見るなり、救急車!と叫びました。私は電話に飛びつき、救急車を呼ぼうと受話器を取りました。
ところが、私は動揺するあまり、救急車の電話番号がわからなくなってしまったのです。頭の中に、0・1・9の3つの数字が浮かんでぐるぐる回り、どの組み合わせなのか判断できないのです。半泣きで、
あれっ?あれっ?救急車って何番?!と叫ぶと、
119だよ!! と夫。
ようやく消防署に電話をかけることができて、すぐに救急車をお願いしました。電話でどのように説明したのか全く覚えていませんが、とにかく救急車は到着し、子リスと私を乗せて病院に運んでくれました。子リスは救急車の中で意識を取り戻しましたが、朦朧とした状態でした。
病院の夜間外来に着くと、すぐに心電図や血圧など色々と検査をしました。そうしている間に子リスの様子も落ち着き、緊急性はないという診断だったため、翌日もう一度受診することにして、タクシーで家に帰りました。(子リスは寝たまま運ばれたために裸足で、仕方なく病院の売店で厚手の靴下を買って履かせ、タクシーに乗るまでとタクシーを降りたあとは靴下で歩かせたことだけ、何故だかとても鮮明に覚えています…)
この日救急外来の先生からの説明では、症状としては「無熱性けいれん」。そして、「てんかん」の疑いあり、ということでした。
翌日と、それからその後2回程病院に行き、その度に脳波、心電図、血液などの検査をしてもらった結果、一体子リスの発作は何だったのかというと…
結局、原因は不明。当初あった「てんかん」の疑いも否定され、無熱性けいれん、という症状名だけがついたという結果になりました。
ただ、小児科の先生がおっしゃるには、
「これぐらいの年齢の子供をその辺から10人ぐらい連れて来て、脳波の検査をしたら、3割ぐらいはいわゆる“異常な”脳波が検出されるんです。だからといって、何か疾患があるわけじゃない。いろいろな刺激で、脳に影響がでることは多々あります。例えばゲームとか…」
はっ!!ゲーム!!
実は子リスは、ゲーム機を使ってやるようなゲームというものを、殆どしたことがありませんでした。
理由の大部分は、私がゲーム嫌いだから。正確には、子供がゲーム機を持ってゲームをしている姿を見るのが単純に嫌だから。というものです。更に、子リスが小学校の時に何度も相談に通っていた保健センターの臨床心理士さん、Uさんに、「ゲームのような、自分だけの世界に閉じこもってしまうような遊びは、あまりしない方がいいでしょう」と言われていました。それで私は、「信頼するUさんがそうおっしゃるのだから…!」と力を得て、もう大手を振って、ゲームをさせない方針を続けて来たのでした。子リスも、うちはゲームは買ってもらえないものだとアキラメていたようで、そうなるとそれほど欲しいとも思わなかったらしく、ねだられたこともありませんでした。世の中の子供が全員「DS」を持っているんじゃないかと思われたような年もありましたが、私の考えはびくともせず、子リスも、欲しいとは一切言いませんでした。
でもその後、時々パソコンでゲームをするくらいなら「お楽しみ」としてあってもいいか、ということになり、小学校高学年になってからは、パパと一緒に、という条件付きでゲームをすることもありました。
更に中学校に入ってからは、夫がスマートフォンを新しくしたため、古いスマホで短時間ゲームをすることもありました。自分専用のスマホやゲーム機は断じて買わないけれど、周りの子がやっていることが、どんなものなのかを体験しておいた方がいいかしら。などとも考えたのだったと思います。
そのスマホでやるゲームの中には、推理力と集中力を要するゲームもあったのですが、痙攣をおこしたあの日の夜、よりによってそれを、寝る前に1時間もやっていたらしいのです。
小児科の先生は、
「小さな画面を集中して見続けることが一番悪いんです。だから、例えばどうしてもゲームをしたいというなら、少しでも大きな画面のものでやる。でも長時間はやらない。それが大事です。」
とおっしゃいました。
私としては、まさに我が意を得たり、です。それだ、それ!!!集中して画面を見続け、その尋常でない量と光とスピード?なんだかよく知らないけど、とにかく特殊なかたちの情報が、未熟極まりない脳みそになだれ込んだに違いありません!
だから子供や若者にゲームはダメなんだってば!
ゲームが悪いというよりは、やる機器と時間が問題。それと、ゲームに向いていないアタマの発達段階であることが問題。ということなのでしょう。それに、脳への過剰な刺激となり得るものは沢山あり、何もゲームに限ったことではないでしょう。しかし、もともとゲーム嫌いの私にとっては、もうこの際、ゲームを世の中から無くしたい!という激情に駆られた瞬間でした…。
…が、それはそれとしても…
改めて思春期の子供(特に男子?)の脳の未発達さを見せつけられた気がして、本当に心配でした。子リスは、そ後10日近くも具合が悪く、体に力が入らない日が続きました。あの痙攣で、体中のバランスというかシステムが狂ってしまったかのように見えました。前回書いたような、「頭の配線のし直し」、どころか、体全部のコードが一気に抜けて、慌てて繋ぎ直していた時期だったのかもしれません。
病院での診断を受けて、子リスの症状に関してはひとまず安心となりましたが、万が一、また痙攣の発作が出て意識を失う可能性を考えて、しばらくの間は自転車に乗ることを禁止されました。更に、近々行われるスキー林間学校には、「できれば参加を見合わせた方がよい。でもどうしても参加するならば、先生によく話して、夜中に見守りをしてもらえるように」と言われました。
私は、ゲームの仕方・させ方に関しては、親子で反省しなければならないと思いましたが、とにかく大事に至らなかった事に感謝の気持ちで一杯でした。あれから10年近く経った今でも、「いや~、あの時はホントに肝を冷やしたわ~。無事でよかった!」と、胸をなでおろすのですが、それに対して子リスは、こんなことを言うのです。
「天罰だよ、天罰…」
なんで?と聞けば、
「いや、態度は悪いわ、ゲームにうつつを抜かしてるわ、学校でもロクなことしてないわ…そんな中学生だったから、天罰が下ったんだよ」
私は、えー?そんなことないと思うけどね。
…と言いながらも、考えてみると、確かにあの事件以来、「毒が抜けた」ように子リスの態度が変わったことを思い出したのです。してみると、やっぱり天罰??
いやいや、天罰と言うよりは、ショック療法とでもいうべきでしょうが、何にしても、元気な子リスに戻ったことが幸せでした。
この事件で学んだこと。
1.小さい画面を見続けるのは人間の脳、殊に思春期の子供にとって良くないことである。
2.思春期の子供の脳みそは、やっぱり未成熟で、危ういものである。
3.脳だけでなく、この頃の子供は、体も心も発達途上であるから、注意が必要である。
4.そして、救急車は119番。
この日以来、我が家では電話の前に、「救急は119」と書いた紙を貼ってあります。